※高校生設定
「そういえば、知ってた? 大輔くんに彼女ができたって話」
太陽は東から出て西に沈むし、地球は太陽の周りを回っている。ある日タケルくんから聞いたその一言は、そんな世界の常識をひっくり返すような衝撃だった。
「僕も最初に聞いた時は驚いたよ。まさかあの大輔くんが、って」
「この僕が大輔なんかに先を越されるなんて……って? さすが、イケメンは言うことが違う」
「違うよ、そういう意味じゃなくて」
じゃあどういう意味? なんて言葉が口をついて出る前に、タケルくんの友達が声をかけてきてほっとした。じゃあね、と遠ざかっていくタケルくんに手を振って、自販機の取り出し口を覗き込む。ミルクティーのボタンを押したつもりが、隣のレモンティーが落ちてきた。
教室に戻りたくなくて、でも、戻らなくて何かあったと友達に気づかれたくもなくて、いつもより時間をかけて白い廊下を進んだ。昼休みの賑やかな話し声は、すりガラスを通したみたいにぼんやりしているのに、何だかいつもより耳につく。無性に腹立たしくなって、紙パックのてっぺんの銀色の丸めがけてストローを突き刺す。あっけない感触だった。
本当は、いつかこういう時が来るってわかっていた。大輔が、ヒカリちゃん以外の女の子を好きになる時が。わかっていたけど、ぬるま湯に浸っていたかった。ヒカリちゃんを好きだということまで含めて、本宮大輔という人間を構成する一部分だと勝手に思い込んでいた。私なんかとても敵わないくらいに、ヒカリちゃんは優しくて素敵な女の子だから。だから、大輔は私のことなんて見ていなくて当たり前。それでいいと思っていた。ずっと、そうであってほしいと思っていた。
ヒカリちゃんのことが好きな大輔は、私のものにはならないけど、他の誰のものにもならないから。
レモンの苦味がほんの少し、いつまでも口の中に残っていた。
2020/03/09