「まぁ、その……元気出せよ、大輔」

 夏って本当、ロクなことがない。オレは、この一週間の間に立て続けに起きた最悪の出来事の数々を賢に語っていた。サッカーの試合に負けた話、ヒカリちゃんを海に誘ったら断られた話。それからタンスの角に小指をぶつけたとか、いつもだったら気にならないようなちっちゃなことの数々。賢は、最初のうちは真剣に聞いてくれたけど、あんまりオレがうだうだ言っているからか、だんだん励まし方が雑になってきた。

「うるせー!夏休みの宿題が終わってる奴にオレの気持ちがわかるかー!」
「そんなこと言われたって……。だいたい、宿題が終わってないのは自分のせいだろう」
「んなこたぁわかってんだよっ!」

 家でダラダラしてると母ちゃんや姉貴がうるせーし、かといって他に行くアテもない。京んちのコンビニの前で燻っているだけの夏休み……空しい。空しすぎる。このまま良いことが一つもないまま、小学生最後の夏が終わっちまうのか……。耳障りなセミの鳴き声を聞きながら項垂れていたら、マンションの入り口から小さな人影が姿を現した。

「あ、大輔さんに一乗寺さん。こんにちは」

 伊織はオレたちの存在に気がつくと、立ち止まって頭を下げた。去年よりだいぶ背が伸びた、って本人は言ってたけど、まだ俺の肩ぐらいの位置に頭がある。

「やぁ、伊織くん。どこか行くのかい?」
「はい。自由研究の資料を探しに、図書館に行くんです」
「だってさ。大輔も行って来たら?」

 図書館ならクーラー効いてるよ、と冗談っぽく言う賢に、伊織は本気で嫌そうな顔をした。

「いえ、その……大輔さんと一緒に行くのはちょっと」
「なんだよ、オレと一緒じゃ不満だってかぁ?」
「別にそういうわけじゃありませんけど、今日はちょっと、その、先約があるので。失礼します!」

 伊織は、俺たちから逃げ出すみたいに走り出した。……と、思ったら、曲がり角のところで急に立ち止まった。赤い手提げカバンを持った女の子が、伊織に向かって手を振っている。伊織のクラスの友達かな、なんて思っていたら、オレは見てしまった。

 伊織とその女の子が、道端で一言二言、言葉を交わしたあと、手を繋いで図書館の方向へ歩いていく姿を。

「……賢。見たか?今の」
「うん。大輔とは一緒に行けないって、そういうことだったのか」

 賢は、この暑さの中でも涼しげに見える横顔に、うっすらと笑みを浮かべた。これがモテる奴の余裕ってやつなのか?そう思うと、どことなく鼻につく笑いだった。

 まったく、夏って本当、ロクなことがない。サッカーの試合ではボロ負けし、ヒカリちゃんをデートに誘えば断られ、おまけに伊織にはかわいいガールフレンドができていた!

2018/08/01
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