※大学生設定・BDBOXのドラマCDネタ
大学の夏休みを利用して戻ってきたこの地で、僕は久しぶりに彼女に会った。明るい日差しの差し込む喫茶店、レモンティーとアイスコーヒーのグラスを挟んで、他愛のない近況報告。
「それで、ジェンはいつ頃こっちに戻ってくるの?」
久しぶりのスピーカーを通さない彼女の声は甘く、この声を聞くのが嫌いになったわけじゃない。それでもなぜか、忙しさを言い訳にして連絡を途切れさせるのはいつも僕の方だった。
「研究したい分野の先生が、向こうにいるんだ。だから……」
卒業しても、あっちで研究を続けたいと思ってる。そう続けると、彼女の長い睫毛が重たげに俯く。これから先も僕があっちにいるということは、今まで通りのすれ違いの日々が続くということだ。グラスの中の氷が溶けて、カランと音を立てる。たぶん、それが僕らの終わりを告げる音だった。
店を出ようとした僕らは、ほとんど同時にテーブルの上に置かれた伝票に手を伸ばした。こんなかたちで彼女の白い指先に触れたいとは思っていなかったはずなのに、僕はあまりにも他の言葉を知らなさすぎた。
「……僕が払うよ」
その一言を何とか喉の奥から絞り出した時、とうとう彼女の瞳からガラス玉のように透明な雫が零れ落ちた。それでも僕の両足は真夏のアスファルトに貼り付いたまま、彼女の白いスカートが翻って雑踏の中に消えていくのを、黙って見送ることしかできなかった。
初めから、こうなることが心のどこかでわかっていたのかもしれない。大学のこと、研究のこと、それから、ずっと会いたいと思っている友達のこと。やりたいこと、夢だった全てを捨てて、彼女を選ぶことはできないってこと。
“あーあ、それがジェンの悪い癖だよ”って、どこかでテリアモンの声が聞こえた気がした。
2019/10/21