通学路の風景は、いつもと同じ。だが、その日に限ってはなぜか、奇妙なほどに静かだった。閑静な住宅街近くの駅は、普段から混みあうほどではないにせよ、人の気配が皆無ということはない。学校帰りの学生、買い物に向かう途中の人、はしゃぐ子ども。しかし今日はなぜか、歩いている途中でそうした人たちとすれ違うことが全くなかった。

 薄気味の悪さを感じるほどに何の気配もしないため、いつも通る公園の前で人影を見つけたときはほっとした。しかも、近くに寄るにつれて、それが顔見知りだとわかったからなおさらだ。

「あれ――荒巻さん?」

 同じクラスの荒巻カヨノは、公園の柵にもたれるようにして腰掛け、何をするでもなくそこに佇んでいた。鮮烈な印象を残すのは、和風の意匠が施された黒いワンピース姿だ。ドレスのようなその服は小柄で華奢なカヨノにはよく似合っていたが、日常に着る服としては少々周囲から浮いて見えた。

「久しぶりだね。最近学校来ないから、心配してたんだよ」

 声をかけられたカヨノは、緩慢な動作で振り向いた。泣きぼくろのある目元が、気だるげな様子でを写す。そのしぐさは、彼女の幼げな容姿に似合わない、妖艶といってもいい雰囲気を漂わせていた。

 ――これって、本当に“あの”荒巻さん?

 グループワークの班決めをするときいつも、教室で小さくなっていた姿が思い出される。小さくて華奢な体に、大きなリボン。きっと、お人形さんみたいに大事にされて育ってきたのだろう。誰かから手を差し伸べてくれるのを震えて待つことしかできない、かわいそうな子。だから、助けてあげなくちゃ――そんな風に思っていたはずなのに。

 動揺を隠しきれないでいるを、カヨノは取るに足らないゴミを見るような目つきで見やった。そして、緩くカールした髪の毛先をもてあそびながら、ふいに言った。

さんって、私のこと馬鹿にしてるでしょ」
「え?」
「そんなつもりじゃなかった、って? でもそういうの、わかっちゃうんだよねぇ」

 カヨノは悲しげな表情を浮かべたように見えたが、その真意を確かめることはとうとう叶わなかった。そこでの意識は途切れ、公園の前の通りには奇妙な人形だけが残されていた。

2023/7/3

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