一人でお弁当を食べているところを人に見られたくなくて、私は教室を出て空いているベンチで家から持ってきたお菓子をつまんでいた。スカスカした食感のスナック菓子は、本当は友達と一緒に食べようと思って持ってきたものだ。

「ごめん、今日みんなで学食行く約束してるから」――いつも一緒にお昼を食べていた友達は、そう言って私に背を向けた。いや、もしかしたらもう、友達と呼ぶべきではないのかもしれない。“みんな”の中に、私は入っていないみたいだから。

 私が、みんなの中から外されたのはどうしてだろう。何が上手くいかなかったんだろう。あの時あんなことを言ったのが失敗だったのだろうか。そんなことを考えながら、スナック菓子をひとつ口の中に放り込んだ瞬間のことだった。

「ふざけんな! 人の弁当まで食うやつがあるか!」

 突然野太い男の怒鳴り声が聞こえてきて、ベンチのすぐ横の植え込みがガサリと揺れた。驚いて固まっていると、そこから転がり出てきた謎の黄色い物体と目が合った。



「邪魔して悪かったな、。ほら、お前も謝れよ」

 怒鳴り声の主は、同じクラスの大門大だった。大門は、最近飼い始めたペットのカエル――ではないと思うし、仮にカエルだったとしても学校に連れてくるのはどうかと思うのだけど、何やら深く突っ込んではいけない事情があるらしい――のアグモンにお弁当を食べられてしまい、そこから殴り合いの喧嘩に発展したらしい。

「わかったよ、兄貴……。ごめんな、

 事情を説明されたところでさっぱり訳がわからなかったけど、人間の言葉を話し大門に促されるままに頭を下げるアグモンを実際に目の当たりにしてしまうと、もはや現実として受け入れるしかなかった。

「どーすっかな。購買行こうにも、財布忘れちまったしよ」

 大門は途方に暮れた顔つきで、乱雑に頭を掻いた。お前のせいだぞ、と言ってアグモンを軽くにらみつけたが、不思議と嫌な感じはしない。

「あの……良かったらどうぞ。一人で食べるのもなんだし」

 気がつくと私は、持っていたお菓子の袋を大門とアグモンの二人に差し出していた。空気を読んでうわべだけの付き合いしかしたことのない私は、彼らのように全力でぶつかり合える相手がいることが、少し眩しく見えたのかもしれない。いや、殴り合いはしたくないけど。

2023/06/12

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