どうしよう。
教室に入った瞬間、同じクラスの子たちが私の席に勝手に座ってお喋りしているところが目に入り、私は朝から絶望的な気分になった。クラスのリーダー格である彼女たちが賑やかにはしゃいでいるところに、私みたいに地味なタイプが「そこどいてくれる?」なんて少し、いや、かなり声をかけづらい。でもそこ私の席だし、騒ぎたいなら自分の席でやってほしいんだけどな……。
彼女たちの中のたった一人でいいから私の存在に気づいてくれることを願い、できるだけゆっくりゆっくり歩を進めながら、自分の席に近づいていく。あと十歩……三歩目くらいまで近づいたら、「ごめん、荷物置きたいんだけど……」って言い始めよう、と頭の中で弱気なシミュレーションを繰り返していると――
「そこ、あたしの席なんだけど」
凛としてよく通る声が、私の背後から突然聞こえてきた。思わず振り返ると、そこには、私のひとつ前の席の牧野留姫さんが立っていた。牧野さんの席は彼女たちに占領されているわけじゃないけど、座ろうとしたら私の机の周りに固まっている子たちがジャマになるのは明らかだ。
「あ、牧野さん! ……さんもごめんね」
そして、牧野さんはその堂々とした態度で以て、一瞬にして私の席に固まっていたグループの子たちを散らしてしまった。私にはとても真似できない芸当に、思わず見惚れてしまう。牧野さんもいつも教室に一人でいる方だけど、彼女の場合はそれがかえってサマになっていて、クールな一匹狼キャラとして成立しているのだ。
「あの……ありがとう、牧野さん」
「別に。あたしが座れなかっただけだから」
自分の席についてから、私は牧野さんの背中に向かって囁いた。だけど、牧野さんは別に私を助けようとしたわけじゃないんだから、何かかえってウザい奴だと思われたかな……。牧野さんのそっけない返答からそう思い込みそうになっていた私は、彼女がこっちを振り向いて話しかけてきたことに驚いてしまった。
「それより、あんなコたち、一回蹴り入れちゃえばいいのよ。そしたらもう、勝手に席取られたりしなくなるよ」
「け、蹴り!?」
「……冗談」
同じクラスで近くの席だけど、こんな風に冗談を言って笑う牧野さんって初めて見た気がする。思いがけない貴重な体験に、勝手に席に座られたのも案外悪いことじゃなかったかも、なんてほんのちょっとだけ思ってしまった。
2019/4/10