※タケル→ヒカリ前提
「ごめん」
私たち以外に誰もいない、夕暮れ時の教室。高石くんと私は、たまたま席替えで隣同士になったのをきっかけに話をするようになり、クラスの女子の中ではけっこう仲がいいほうだった、と思う。本の貸し借りをしたり、日曜日に二人で一緒に遊びに行ったこともある。それでも、彼からの返事を聞いた時、最初に私の脳内に浮かんだ言葉は、やっぱり、だった。
「気持ちは嬉しいけど、今は誰とも付き合う気はないんだ」
それから続く言葉まで、何となく予想していた範囲内だったので、私は悲しむよりも先に笑えるとすら思ってしまった。高石くんは優しいから、自分に好意を持っている相手を傷つけないように振舞ったなら、そういう言い方になるだろう。
このあとの続きを想像してみよう。私は俯き加減のまま、そっか、とか、ごめんね、とか言って教室を去る。高石くんは、追いかけない。私は、自分の部屋に帰ってからこっそりと涙を流す。優しい高石くんは、私の告白が原因で態度を変えたり、誰かに言いふらしたりするような人じゃない。だから私も、明日教室に来る時には普通の顔をしていられる。そうして友達のままでいること。きっとそれが、この恋の最良の終わらせ方だろう。
だけど私は、そんな風に高石くんのことが好きな女の子の一人として忘れられていくのが我慢できなかった。
「それって、八神さんのことが好きだから?」
せめて、誰にでも優しい高石くんの、仮面の下にあるものを見てみたかった。そのために傷をつけようとした。高石くんの青い瞳が揺れる。心臓をナイフで一突きしたような、そういう実感があった。
隣のクラスの八神ヒカリさんは、高石くんの小さい頃からの“お友達”。八神さんはそう言っているけれど、高石くんにとってはそうじゃないことくらいわかった。私だって、一年の頃からずっと高石くんを見ていたのだ。
「ヒカリちゃんは、そういうのとは違うよ」
こうして、私の目論見は成功した。これでもう二度と、私たちは友達には戻れない。高石くんの声は、今まで聞いたことがないほどに冷たい響きとなって私の胸の中に沈んでいった。ヒカリチャンハ、ソウイウノトハチガウヨ。じゃああなたのことを好きになって告白までした私は一体何だったの、なんて、聞くまでもないじゃないか、そんなの。
2017/10/10