は自分のことをごく普通の中学一年生だと思っているが、本当はいわゆる天然とか不思議ちゃんとか、あるいは変人と称される人間だった。学校帰りに突然雪山に迷い込み激しい吹雪に晒されようともたいして動揺しないあたりにその片鱗が見え隠れしている。しかし、「わあっ!雪っ!」などと雪だるまを作り始めたりはせず、寒さを凌ぐ方法を考えるあたりは案外現実的でたくましいと言えるかもしれなかった。
「ええと、こういうときは風にさらされない場所で、動かないで救助を待つといいのよね」
何かのテレビで得たうろ覚えの知識をもとに、は岩肌の開いている箇所を見つけ、洞窟の中に足を踏み入れた。
「ていうか、ここはどこ?」
は校章の刺繍が入ったカーディガンの前をかきあわせながら、独り言にしては大きな声で言った。
「ここはデジタルワールド!」
すると、洞窟の奥の奥から、たいそうかわいらしい声が聞こえてきた。返事が返ってくることなど予想していなかったはたいへん驚いて、声の方向へ走った。凍結した地面の上でローファーがすべったが、運動神経だけはやたら良いので転ばずにすんだ。
「誰かいるの?」
「ぼくたち、ユキミボタモン!」
洞窟の細い道筋の奥に、開けた空間があった。そこにたどり着いた時、は驚きに目を見開いた。そこには雪のようにまっ白い体にふわふわの体毛をした生き物――ユキミボタモンたちの姿があった。の問いかけに答えたのは、なんだかよくわからないがこのたいそうかわいい生き物たちであるらしかった。
「だれ?だれ?」「なんてデジモン?」「ちがうよ、ニンゲン!」「ニンゲン?」「ってなーに?」
次の瞬間、 は足元にいたユキミボタモンの一匹を手のひらに乗せて跳びあがった。
「かわいい!!」
目の前にカワイイ生き物がいる、それがすべてであった。ここがどことも知れぬ雪山であることなどは、すっかり彼女の頭から抜け落ちていた。がユキミボタモンのふわふわした体を撫でると、ユキミボタモンはくすぐったそうに彼女の手から飛び降りる。
その子を追いかけたは、ふと、何者かが自分を見つめている気配に気がついた。足元にいる無数のユキミボタモンたちではない、何か。は、視線の感じる方向――洞窟の奥へゆっくりと歩を進めていった。
洞窟の最深部に辿り着いたはまず、雪よりも白いプラチナの輝きに目を奪われた。そこにいたのは、一体の竜だった。その背丈は人間の大人をゆうに超えるほど大きく、鋭い黄金の爪と一振りの剣を携えて、静かにを見下ろしている。しかしは、不思議とその存在を恐ろしいとは思わなかった。
「問おう。貴方が私の――ジェネラルか?」
ジェネラル。尋ねられた言葉の意味はわからなかったが、その声には凪いだ海のような穏やかさがあった。この竜は、きっとを傷つけない。そのことを確信したは一歩前へ踏み出すと、ほほ笑みかけた。
「私は、。その……ジェネラル? かどうかはわからないけど、あなたとはお友達になれそうだわ!」
この時こそ、白銀の鎧をまとった聖なる騎士と、彼のジェネラルとなる人間が出会った瞬間であった。後にその存在が伝説に語られることになるとは、今はまだ、誰も知らない……。
2017/08/27